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【医師が解説】リワークとは【リワークプログラム】

 

 

リワークは「Return to work」の略語で、うつ病、抑うつ状態、適応障害などのメンタルヘルスに問題を抱え、現在休職している人たちを対象に、職場復帰や職場定着の支援を目的としたリハビリテーションプログラムを指します。

リワーク以外にも「復職支援プログラム」や「職場復帰支援プログラム」とも呼ばれ、呼び名はさまざまです。

 

これらのプログラムは、クリニックに付属した施設で行われることが多く、医師、看護師、作業療法士、臨床心理士、精神保健福祉士などの多職種のスタッフがサポートします。

医療機関以外でもリワークプログラムは多く実施されていますが、診断、治療、リワーク(デイケア)を経て復帰まで一貫して行えるのは、クリニックが運営するリワークプログラムの特長です。

専門の医療職が協力してプログラムを行っているため、就労についての幅広い相談が可能です。

 

 

「リワークプログラム」とは?

内容や効果など詳しくご紹介

 

「リワークプログラムとは何か?」、「休職中のリワークプログラムで何をするのか?」、「リワークプログラムの効果は?」、「リワークプログラムへの参加は継続すべきか?」など、うつ病や適応障害で休職中の人が参加するリワークプログラムについて知りたい方は多いと思います。

 

近年、日本の労働者におけるメンタルヘルスの問題が増え、休職や復職に関する悩みが多いことから、新しい復職の支援としてリワークプログラムは広まりつつあります。

 

ここでは、リワークプログラムとはどのようなものかを詳しく紹介します。

 

 

 


 

目次

リワークプログラムの背景

リワークプログラムの対象

リワークプログラムの目的

リワークプログラムの援助

リワークプログラムの内容

リワークプログラムの期間

リワークプログラムの効果

リワークプログラムに関するQ&A

まとめ

 


 

リワークプログラムの背景

 

そもそも、リワークプログラムはどのような背景で始まったのでしょうか。

プログラムの内容を理解するために、その背景を知ることは重要です。

 

リワークプログラムの歴史は、1997年に始まり、「職場復帰援助プログラム」という名前で知られています。

リワークプログラムが生まれた背景には、日本の労働状況が関係しています。

うつ病や適応障害を発症し、仕事を休んだり退職したりする社員がいる会社の割合は、年々増加傾向にあります。

 

復職を考える場合、うつ病や適応障害の精神症状の改善だけでなく、生活リズムや作業能力、ストレスにうまく対処できる能力、コミュニケーション能力などの社会的機能の改善が強く求められます。

しかし、これらの社会機能の改善は、休養や薬物療法などの治療だけでは難しいと言われています。

 

そこで、新たな復職支援として広まりつつある「リワークプログラム」が重要となってきます。

リワークプログラムとは、うつ病や適応障害によって休職中の方向けに、職業復帰に向けたリハビリテーションを行う治療プログラムです。

 

現在、日本全国で220カ所以上の医療機関や障害者職業センター、民間従業員支援プログラムなどで、このリワークプログラムが実施されています。

 

 

 


 

リワークプログラムの対象

 

リワークプログラムへの参加には特定の条件が必要だと思われるかもしれません。

ここでは、プログラムの主な対象者について説明します。

 

一般的に、リワークプログラムは、精神疾患(特に気分障害(うつ病、躁鬱病など)や適応障害)により休職し、休職期間が決定している労働者を対象としています。

ただし、プログラムの詳細は施設により異なる場合があります。

また、医師の許可を得て、復職の準備期間を設けることができる方も対象となります。

 

リワークプログラムを提供している病院の利用者の傾向を見てみると、大企業に勤務するビジネスマンや公務員などが多く、女性の割合は約10%〜20%です。

利用者の多くは大学または大学院卒で、勤務先は大企業の総合職や公務員で、管理職の経験者も多いです。

年齢層は20代後半から30代の若年層と40代から50代の中年層に分かれています。

 

 


 

リワークプログラムの目的

リワークプログラムは何のためにあるの?と疑問をお持ちの方に、プログラムの目的を一言で言うならば、「復職と再休職の予防」です

 

2018年2月に発足された、一般社団法人日本うつ病リワーク協会によると、

プログラムの目的は、

①病状を回復・安定させること

②復職準備性を向上させること

③再発防止のためのセルフケア能力を向上させること

とされています。

 

上記の①〜③について、1つずつ説明していきます。

①病状を回復・安定させるためには、「自分自身を知ること」、「自分の病気について理解すること」、「自分の病気に対する対処法を知り実践できること」が大切です。

②復職準備性を向上するためには、「復職に向けた作業能力の向上、体力や集中力の向上」、「対人関係やコミュニケーションの技術を身につけてストレスを回避すること」が大切です。

③再発防止のためのセルフケア能力を向上させるためには、「自分にとって規則正しい生活リズムを習得すること」「今までの自分自身を振り返って分析し、再発予防のプランを立てること」「同じ目標をもった仲間を増やし、復職に対する不安を減らすこと」が大切です。

 

しかし、理論的には理解していても、うつ病で休職中の方にとっては、限られた休職期間内に「うつ症状の管理」と「復職準備性の向上」のバランスを築くことは容易ではないかもしれません。

専門家の支援の下であっても、うつ症状の管理と復職準備性の向上のバランスが取れなかったり、不十分な状態で復職を余儀なくされるケースも少なくありません

 

そのため復職支援では、「復職すること」が援助者も休職者もの最終目標となりがちですが、「再休職の防止」という目標を達成するためには、プログラムの内容がとても重要となります。

 

 


 

リワークプログラムの援助

リワークプログラムは、どんな人によって行われるの?と疑問をお持ちの方に、リワークプログラムの援助を行う専門家についてご説明します。

リワークプログラムは、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士などの専門家によって行われることが基本です。

医師による病状管理、看護師による日々の細かい状況の把握や看護、作業療法士による実践的な訓練、精神保健福祉士による社会復帰への促進など、専門的な援助が行われます。

それぞれの専門家がチーム一丸となって、援助していきます。

 

 


 

リワークプログラムの内容

 

リワークプログラムとは何をするのか、という疑問を抱いている方のために、プログラムの内容を「基本」「応用」「社会適応」の3つのカテゴリーに分け、具体的に説明します。

プログラムの順序は各機関により異なりますが、多くの場合、「基本」→「応用」→「社会適応」の流れで進行します。

 

状況に応じて、これらのプログラムは併行して行われたり、中断したり、一度戻ったりするなど、対象者のニーズに合わせて実施されます。

 

1. 基本プログラム

基本のプログラムでは、病状の回復・安定化、集団での行動体験、病気への理解と対処法の習得を主な目的とします。

基本プログラムとして行われる主要な内容を4つ紹介します。

 

集団療法

集団療法は他者と共に過ごし、交流する機会を提供します。

利用者は各々が様々な作業に取り組む場で、自分が興味を持つ活動(例えば読書や塗り絵など)を行います。

このプログラムは通常、週に2回、各回60分程度行われます。

このような目的を持つ集団活動の場を「パラレル」と呼びます。

パラレルとは、同じ空間を共有しながら、他の人と同じ活動を行う必要がなく、制約の少ない集団活動の場を指します。

ここでは、参加者の状態や目的に応じて利用が可能で、常時、誰でも参加でき、断続的な参加でも問題なく受け入れられます。

人間は一人で生きることが難しく、自分と似た仲間を求め、他人に受け入れられることで安心感を得たり、他人に認められることで自己確認をしたり、他人の役に立つことで喜びを感じます。

また、自己確認のための基準や模範を求め、一人ではできないことに挑戦します。

これらの理由から、人間は集まることが大切なのです。

 

作業遂行機能の向上

作業遂行能力を向上させることは重要です。

例えば、作業指示を間違いなく理解し、作業遂行に大きな支障がないか、作業時間を問題なく集中して続けられるか、作業の見通しを立てて問題なく行動できるか、作業を丁寧にこなすことができるか、作業進行に支障のない速度で作業を行うことができるか、工夫しながら必要に応じて指示を求めることができるか、作業手順の変更にも柔軟に対応できるか、など、様々な視点から作業遂行能力を向上させるアプローチを行います。

 

体力向上トレーニング

体力向上のために、ウォーキングやバドミントン、卓球などのスポーツを行います。

個々の基礎体力は人により異なるため、自分に合ったペースで運動を行います。

日常生活や勤務に必要な体力を維持し、疲労感が出ないようにトレーニングします。

このプログラムは通常、週に1回、各回60分程度行われます。

 

疾患教育

自身の疾患について理解を深めるために、疾患に関する講義を受けます。

疾患が持つ特徴、疾患が発症する原因、適切な対処法などについて、専門家から講義を受けることで、疾患への理解が深まります。

 

 

 

 

2.応用プログラム

応用プログラムの目的は、自己分析、規則正しい日常生活の習得、ストレス対処技術の習得などにあります。

以下に応用プログラムの主なコンテンツを3つご紹介します。

 

自己分析・認知行動療法

自分の病状だけでなく、自己を深く理解することが重要です。

マインドフルネス(気づきの大切さ)による病気の回復効果は証明されています。

そして、"セルフ・コンパション"と呼ばれる、苦痛や心配を経験したときに自分に対する思いやりを持ち、否定的経験を人間共通のものと捉え、苦痛を伴う思考や感情をバランスよく管理する能力が、復職を成功させる上で重要となります。

認知行動療法は、自分の思考や行動を振り返り、気づき、変化を促すシンプルな療法で、世界中の様々な場面で活用されています。

うつ病、不安障害、適応障害の方に対して、認知行動療法を復職支援の一環として導入し、その効果を検証した研究があります。

その研究によると、うつと不安症状、社会適応状態、職場復帰後の人間関係の困難さ、職務に必要な認知能力の問題などが認知行動療法後に改善したという結果が得られています。

さらに、8割程度の方が復職後3ヶ月以上継続勤務できていることが確認されています。

 

社会生活技能訓練(SST)

SSTは「Social Skills Training」の略で、社会生活の障害を改善する目的で開発された効果的な訓練方法です。

SSTは、多種多様なストレス状況に対処し、社会的役割を果たせるように生活技能を向上させ、生活の質を改善し、再発防止を目指します。

つまりSSTは、「対人関係を円滑に運ぶために役立つ技能を身につける訓練」なのです。

適切な行動ができなかった場合は、見本を見せて行動修正を行います。

SSTには基本的に、訓練のモデルがあります。

「他者に声かけをする」「困りごとを相談する」などの社会的な交流技能を中心に、ストレスに対処する技能や問題解決の技能を身につけていきます。

 

セルフケア

セルフケアとは、食事、整容、更衣、排泄、入浴といった基礎的なものから、買い物、料理、掃除、公共交通機関の利用、書類の手続き、服薬管理などの応用的なものがあります。

このようなセルフケア、すなわち日常生活における自分自身の管理が大切であり、生活の状況を振り返りながら、生活のリズム改善に努めていきます。

 

 

 

3.社会適応プログラム

社会適応プログラムは、自己分析と働く状況の予行演習を通じて、再休職を防ぐことを主な目的としています。

ここでは、プログラムが提供する三つの主要な要素について紹介します。

 

再休職予防

この部分では、自己分析と反省を通じて、休職や再休職に至った要因を探求します。

自分の思考パターンやネガティブ思考などから出発し、再休職を防ぐための対策を自己立案します。

 

通勤訓練

実際の通勤状況をシミュレートするための予行演習を行います。

例えば、電車通勤の場合、家から最寄りの駅、乗換駅、職場の入り口、そして職場までの流れを段階的に練習します。

訓練は週一回から開始し、最終的には復職後のスケジュールに合わせて週五回まで増やします。

 

試し出勤

医師から復職が許可された場合に試し出勤を開始します。

全日出勤を即座に開始するのではなく、短時間から始めて、個人の状態に合わせて徐々に勤務時間を延長します。

目標は最終的にフルタイム勤務に移行することです。

 

 

 


 

リワークプログラムの期間

リワークプログラムはいつからいつまで?どのくらいの期間行うの?と疑問に思う方は多いと思います。

 

リワークプログラムの期間は、機関によって異なります。

一部の機関ではプログラムを3ヶ月間で設定していますが、他の機関では9ヶ月以上という長期間で設定している場合もあります。

なお、プログラムの期間は病状や個人の性格特性によっても変わります。

そのため、一概に明確な期間を決めることはできません。

 

各機関では専門家が個々の状況を詳しく分析し、必要な目標期間を設定してプログラムを実施しています。

 

 

 


 

リワークプログラムの効果

リワークプログラムを利用する意味はあるの?と実際の効果が気になると思います。

 

リワークプログラムを利用した人としなかった人で、復職後の就労継続日数はどう違うかを調べた研究があります。

この研究では、年齢・性別・仕事内容などをバランス良く揃えた100名(プログラムを利用した50名と利用しなかった50名)を対象に比較をしており、大変参考になります。

研究の結果は以下の表で示す通り、プログラムを利用した人は利用しなかった人と比べて、就労継続日数が長く、効果が良好であったことが証明されています。

 

 


 

リワークプログラムに関するQ&A

ここまで、リワークプログラムについて詳しくご紹介致しました。

 

しかし、「実際に参加してどうだったの?」「体験談や評判を聞きたい」など、実際の参加者の声を知りたい方は多いと思います。

皆様のよくある質問をQ&A形式で回答します。自分に適応するのか、参加する意味はあるのか、参加してみて継続すべきかどうかなど、お悩みの方は、以下の情報を参考にしてみてください。

 

Q1.リワークプログラムに参加して、実際に職場復帰すると上手くいくのでしょうか?

A.前項でご紹介したように、リワークプログラムに参加した場合としなかった場合では、職場復帰した後に継続して働く事のできる期間に違いが現れ、利用した場合は継続しやすいことが明らかになっています。

もちろん、働く上でストレスを感じることや上手くいかないことはありますが、それらを上手く処理する能力を学習することのできるリワークプログラムは、効果的だと言えます。

Q2.リワークプログラムへの参加がしんどい時、無理して参加すべきなのでしょうか?

A.リワークプログラムへの参加がしんどい時もあります。

リワークプログラムは、必ず専門家の援助により行われます。

「参加がしんどい」と自分で判断することは、自分を認識し、現実を検討する能力が改善している証であるとも言えます。

参加がしんどい場合、できることから始めたり、中断したりなど、専門家がしっかり様子を見ながら進めていきますので大丈夫です。

Q3.リワークプログラムに参加すると仲間ができるのでしょうか?

A.リワークプログラムの目的には、同じ目標をもった仲間を増やし、復職に対する不安を減らすことがあります。

集団の中で自身のことを話す中で、自分と同じ悩みや目標をもった仲間と出会うことができるので、自分ひとりだけではないという安心が生まれ、復職への不安も軽くなります。

Q4.リワークプログラムのグループワークや討論は緊張するものでしょうか?

A.グループワークや討論は、緊張するのでは…と不安になりますよね。

集団での会議は、個人の病状の回復状況や性格特性に合わせて進行されます。

そのため、初めからグループワークや討論を強いられることはありません。

リワークプログラムは、専門家の判断により、個々の状況に合わせて無理なく少しずつ進行されます。

 

 

 


 

まとめ

 

うつ病や適応障害の方が休職中に利用するリワークプログラムについて、今回はご紹介しました。

現在の日本の労働状況において、「ワークライフバランス」は重要視されています。

ワークライフバランスとは、老若男女が仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、さまざまな活動について自分自身が希望するバランスで展開できる状態を指します。

休職者が復職後に安定して仕事を継続するためには、このワークライフバランスが大変重要です。

 

リワークプログラムは、このワークライフバランスを獲得するための第一歩となります。

この記事が、リワークプログラムについて知りたい方の参考になれば幸いです。

 

 


 

引用文献・引用サイト

1.副田 秀二.復職支援(リワーク)プログラム利用者の特徴と復職の転帰J UOEH(産業医科大学雑誌)38( 1 ): 47-51(2016)

2.南庄一郎.精神科デイケアのリワーク支援における生活行為向上マネジメントの試み作業療法第39巻第4号(2020)

3.五十嵐良雄.わが国における復職支援の現状と課題.Vel52 No8.2012.心身医

4.飯島優子.リワークプログラムを利用する働く女性の特徴と支援.女性心身医学 J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol. 24, No. 3, p. 265-268.(2020)

5.中川裕美 他.うつ病休職者の復職支援のための マインドフルネス講座における有効性の検討.マインドフルネス研究 2020 年 第 5 巻 第 1 号

6.鈴木文子 他.精神障害による休職者の復職セルフエフィカシーを 高める介入プログラムの検討.Journal of Health Psychology Research Vol. 31, Special issue

7.伊藤大輔 他.職場復帰支援の再考―職場に焦点化した集団認知行動療法プログラムの試み.2018

 

 

 

 

 


 

医療法人社団結糸会 リワークセンターキズナ

 

 

 

 

 

 

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